「カリガリ博士」という映画を知っていますか。
1920年にロベルト・ヴィーネ監督によって制作された
モノクロのサイレント映画です。

恐怖映画の源流となる、様々な人々に影響を与えた作品だそうです。
私もなかなか観る機会がありませんでしたが、
いまは動画サイトなどで観ることができます。



この本は、
「谷崎潤一郎 1918」
「大泉黒石と溝口健二 1923」
「衣笠貞之助 1926」
という3つの論文によって
「カリガリ博士」という作品が公開され、
揺籃期だった日本の映画界にどのような影響を与えたかを明らかにしています。

特に興味深かったのは、
「谷崎潤一郎 1923」で、映画にのめりこんだ時期の
谷崎潤一郎に大きく踏み込んだところと、
「衣笠貞之助 1926」で、
当時の映画界の在り方を描いたところがおもしろかったです。

大正時代のモノクロ映画では、女性役は男性が演じていた、
というのはあらためてまとまった文章として読むと
ものすごくショックを感じました。
(アップもないし、画像は鮮明ではないし、発声もないから
当時は違和感を感じなかったのでしょう)

そして「女優」が現れることで、
廃業せざるをえなくなった女形俳優の存在。
そこから転身して映画監督となった衣笠貞之助監督。
そして制作したアバンギャルドな映画。
全てが興味深く、大正時代を生きた人びとに思いを馳せました。

この1冊の本の向こうに大量の資料と、時間と、
そして四方田氏の深い洞察と映画への思いに心が動かされました。

映画、作家、大正時代、恐怖小説、ホラー映画、などに興味を持っておられる方、
そして読み応えのあるノンフィクションに関心のある方はぜひ手にとってみて下さい。
とても充実した読書の時間をお約束できる本です。